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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)293号 判決

東京都新宿区西新宿2丁目1番1号

原告

シチズン時計株式会社

代表者代表取締役

中島迪男

訴訟代理人弁理士

三澤正義

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

荒井寿光

指定代理人

江成克己

及川泰嘉

木村良雄

吉野日出夫

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告

「特許庁が平成3年審判第413号事件について平成6年10月21日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年5月15日、名称を「電子時計用集積回路」とする発明(以下、「本願発明」という。)について特許出願(昭和56年特許願第73172号)をしたが、平成2年12月18日に拒絶査定がなされたので、平成3年1月11日に査定不服の審判を請求し、平成3年審判第413号事件として審理された結果、平成6年10月21日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年12月5日原告に送達された。

2  本願の特許請求の範囲第2項記載の発明(以下、「本願第2発明」という。)の要旨(別紙図面A参照)

電子時計用集積回路において、分周回路は直流的に定電流バイアスされたダイナミック分周回路であり、該分周回路を構成するPチャネル電界効果トランジスタ群の入力端とNチャネル電界効果トランジスタ群の入力端をそれぞれコンデンサで発振回路の出力端と交流的に結合することにより、分周回路ゲート容量が発振回路容量に組み込まれて動作することを特徴とする電子時計用集積回路

3  審決の理由の要点

(1)本願発明の要旨は、特許請求の範囲1項及び2項記載のとおりの「電子時計用集積回路」にあるものと認められるところ、本願第2発明の要旨は、前項のとおりである。

(2)これに対し、昭和55年特許出願公開第121705号公報(昭和55年9月19日出願公開。以下、「引用例1」という。)には、「電子時計用集積回路において、分周回路8はダイナミック分周回路であり、該分周回路8を構成するPチャネルトランジスタ群の入力端とNチャネルトランジスタ群の入力端をそれぞれ発振回路7の出力端と結合してなる電子時計用集積回路」が記載されている(別紙図面B参照)。

また、昭和54年特許出願公開第2051号公報(昭和54年1月9日出願公開。以下、「引用例2」という。)には、「インバータ9はP-MOST11、N-MOST12、第1、第2の抵抗素子13、14、第1、第2のコンデンサ15、16から構成され、インバータ10はP-MOST17、N-MOST18、第1、第2の抵抗素子19、20、第1、第2のコンデンサ21、22から構成されている。インバータ10のP-MOST17のゲートとN-MOST18のゲートに、それぞれ抵抗素子19、20を介して一定電圧が印加されて直流的に定電流バイアスされ、インバータ10のP-MOST17の入力端とN-MOST18の入力端は、それぞれコンデンサ21、22でインバータ9の出力端と交流的に結合されて、インバータ10のゲート容量がインバータ9容量に組み込まれて動作するようになし、これにより応答限界の向上が得られ、スイッチング時の充放電電流も減少し、一段と低電圧化することができる。」、及び、「上記したインバータは、電子時計等、使用周波数範囲が広い装置において、発振回路や分周回路の上段部に用いることができる。」ことが記載されている(別紙図面C参照)。

(3)本願第2発明と引用例1記載のものとを対比すると、引用例1記載の「Pチャネルトランジスタ、Nチャネルトランジスタ」は、それぞれ本願第2発明の「Pチャネル電界効果トランジスタ、Nチャネル電界効果トランジスタ」に相当するものであるから、両者は、「電子時計用集積回路において、分周回路はダイナミック分周回路であり、該分周回路を構成するPチャネル電界効果トランジスタ群の入力端とNチャネル電界効果トランジスタ群の入力端をそれぞれ発振回路の出力端と結合してなる電子時計用集積回路」である点において一致し、次の点において相違する。

「ダイナミック分周回路に関して、本願第2発明が、直流的に定電流バイアスされたものであり、Pチャネル電界効果トランジスタ群の入力端とNチャネル電界効果トランジスタ群の入力端をそれぞれコンデンサで発振回路の出力端と交流的に結合することにより、分周回路ゲート容量が発振回路容量に組み込まれて動作するようになっているのに対し、引用例1記載のものはそのような構成になっていない点」

(4)上記相違点についそ検討すると、応答限界の向上と一段の低電力化を図るために、直流的に定電流バイァスされたインバータ10のP-MOST(本願第2発明のPチャネル電界効果トランジスタに相当する。)の入力端とN-MOST(本願第2発明のNチャネル電界効果トランジスタに相当する。)の入力端をそれぞれコンデンサでインバータ9の出力端と交流的に結合して、インバータ10のゲート容量がインバータ9容量に組み込まれて動作するようにした点が、引用例2に記載されており、そして、上記インバータを電子時計の発振回路や分周回路の上段部に用いることができることも示唆されているから、上記インバータの構成を引用例1記載のダイナミック分周回路の上段部に採用して、そのダイナミック分周回路を直流的に定電流バイアスされたものにすると共に、該分周回路のPチャネル電界効果トランジスタ群の入力端とNチャネル電界効果トランジスタ群の入力端をそれぞれコンデンサで発振回路の出力端と交流的に結合することにより、分周回路ゲート容量が発振回路容量に組み込まれて動作するようになすことは、当業者であれば容易に想到しえたことである。

そして、本願第2発明の要旨とする構成によってもたらされる効果も、引用例1及び引用例2記載のものから当業者であれば、予測することができた程度のものであって、格別のものとはいえない。

(5)したがって、本願第2発明は、引用例1及び引用例2記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないもりであり、特許請求の範囲1項の発明について検討するまでもなく、本出願は拒絶すべきものである。

4  審決の取消事由

本願第2発明と引用例1記載のものとが審決認定の一致点及び相違点を有すること、及び、相違点のうち「分周回路を構成するPチャネル電界効果トランジスタ群の入力端とNチャネル電界効果トランジスタ群の入力端をそれぞれコンデンサで発振回路の出力端と交流的に結合することにより、分周回路ゲート容量が発振回路容量に組み込まれて動作する」構成が想到容易であったことは争わない。しかしながら、審決は、本願第2発明の技術内容及び引用例2記載の技術内容を誤認して、相違点のうち分周回路を「直流的に定電圧バイアスされたダイナミック分周回路」とする構成の想到容易性の判断を行った結果、本願第2発明の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)本願第2発明が要旨とする「定電流バイアス」の技術内容について

本願第2発明の特許請求の範囲に記載されている「定電流バイアス」は、一定の電流を流すバイアスという意味以上の解釈ができないので、その技術内容を明らかにするためには、明細書の発明の詳細の説明を参酌しなければならない。

本願第2発明は、「従来の水晶発振用増幅回路では、第1図AのインバータのGD間を高抵抗素子で接続したものが用いられていたが、(中略)2乗領域で使用するために貫通電流が多い割に電圧増幅率が小さいし、電源電圧の変化に対して増幅率が影響を受け易く発振マージンが少ないか消費電流が多くなるかになる」(平成7年4月7日付け手続補正書添付の全文補正明細書(以下、「本願明細書」という。)11頁7行ないし13行)こと、及び、「ダイナミック分周回路は、動作入力周波数に上限と下限を持ち、FETの閾値のばらつき、温度、入力振幅の影響を受け易く、(中略)動作マージンが小さい」(同12頁2行ないし6行)ことを解決すべき技術的課題として把握し、前者の課題の解決手段を、「相互コンダクタンスを大きくかつ貫通電流を少なくするためには、何らかの方法で最適なドレィン電流となるような制御回路との組合せが必要である。これがない場合には、FETのVTHのばらつきや温度の変化により最適バイアス状態から外れ易く使いものにならない」(同11頁13行ないし19行)との知見、後者の課題の解決手段を、「比較的高い周波数の分周を行う場合にはダイナミック分周回路が使われるが、ここでも定電流バイアスによる効果が大きい。(中略)ダイナミッタ分周回路の内で、入力信号が印加されるFETを高抵抗を介して定電流バイアスをほどこし、コンデンサを介して交流結合により入力信号の交流成分を印加すると、上記の如きダイナミック分周回路の持つ動作マージンの小ささをカバーできる」(同11頁20行ないし12頁11行)との知見に基づいて創作されたものである。

以上のような本願明細書の記載によれば、本願第2発明の特徴とするところが、ダイナミック分周回路におけるFETのうち入力信号が印加されるFETのゲートに高抵抗を介して制御回路からの定電流バイァズを施すことにあり、この定電流バイアスは、電源電圧や周囲温度の変化にかかわらず、常に制御回路によって最適なドレイン電流となるように制御されているものであることは明らかである。

これを具体的にいえば、別紙図面Aの第7図Eには、P型FETのゲートに、高抵抗を介して、カレントミラー(制御回路)の一方の出力電圧をバイアスVBIASPとして印加し、N型FETのゲートにも、高抵抗を介して、カレントミラーの他方の出力電圧をバイアスVBIASNとして印加することが示されているが、このカレントミラーは、本願明細書に「レギュレータ555の出力信号は発振バイアス調整回路540、ダイナミック分周の自走周波数の調整回路542、発振分周電流調整回路548、温度検出調整回路550、552へ基準となる電圧情報を伝達する。これらの基準情報はFETを用いたカレントミラー回路により伝達され、定電流バイアスに用いられる。」(21頁7行ないし13行)と記載されているように、電源電圧の変動あるいは温度変化に対応して出力を変動させ、発振回路あるいは分周回路を駆動するものである。その結果、カレントミラーからのバイアス電圧は、電源電圧あるいは周囲温度の変動を補償して、常に最適な大きさのドレイン電流を保つような電圧に制御されているのであって、これが、本願第2発明が要旨とする「定電流バイアス」にほかならない。そして、分周回路にこのような「定電流バイアス」を施すことによる作用効果は、本願明細書に「第6図Aで、ein=VBの直線は、発振器の出力電圧幅が通常の方法の発振では電源電圧以下になるので、(中略)分周範囲は上方に拡がっているが、実際上はein=VBの直線の下方しか使えない。実際に動作する範囲で比較すると、第6図Bの方が格段に範囲が広い事が判るであろう。又電源電圧に対すると同様の安定動作化の作用が温度特性及びFETの閾値のバラツキに対して効く。」(15頁9行ないし18行)と記載されているとおり、動作範囲の拡大と動作安定性の向上にある。

以上のとおり、本願発明が要旨とする「定電流バイアス」は、常に最適な大きさのドレイン電流を保つようなバイアス電圧を印加することであって、単に、各FETのゲートに高抵抗を介して一定の電圧を印加することではない。本願明細書7頁8行、9行の「一定のバイアス電圧を印加して定電流バイアスし」という記載は、同趣旨を述べる他の記載(例えば、23頁19行ないし24頁2行、24頁14行ないし16行)からみて、「所定のバイアス電圧を印加して定電流バイアスし」の意味であることは明らかである。

(2)引用例2記載の技術内容

一方、引用例2記載の発明は、「例えば電子時計においては、使用する電池の電圧が1.57ボルト程度である。従って上記供給電圧を得るためには、電圧降下手段が必要となり、それ自体でも電力を消費し、全体としての低電力化が期待できるとは言い切れない。また、このような素子はスレツシヨルド電圧の高い素子と共に同一チップ上に構成することは困難であるため、装置の複雑化、大型化を招く場合もある。更に第1図に示すC-MOSインバータは比較的ゲート容量が大きいため、扱う信号の周波数の上限が低いといった欠点も有している」(2頁左上欄7行ないし18行)ことを解決すべき技術的課題として把握し、「特に高い周波数の信号に対して極めて低い電力で動作するインバータを備えた半導体装置を提供する」(2頁左上欄19行ないし右上欄1行)ために、「対称相補形接続されたP型およびN型のMIS・FETと、一方の電極が相互接続され他方の電極が上記P型およびN型のMIS・FETの各ゲート電極にそれそれ接続された第1、第2のコンデンサと、上記P型およびN型のMIS・FETの各ゲート電極に接続され上記ゲート電極に一定電圧を印加することから成るインバータを備えたことを特徴とする半導体装置」(1頁左下欄4行ないし11行)を特許請求の範囲とするものである。そして、別紙図面Cの第3図には、P-MOST3 とN-MOST4を直列接続し、各MOSTのゲートに(電源電圧を高抵抗で分割する回路を介して)一定電圧VDD1、VSS1を印加するとともに、各ゲートをコンデンサ6、8を介して入力端子Cに接続した構成が示され、「P-MOST3のゲート電極には(中略)第1の抵抗素子5(中略)が接続されている。N-MOST4のゲート電極には第2の抵抗素子7(中略)が接続されている。(中略)第1、第2の抵抗素子5、7の一端には例えば電池電圧を高抵抗で分割する回路(中略)に接続され、一定電圧VDD1、VSS1が印加されている。」(2頁右上欄9行ないし19行)、「バイアス点はP-MOST3及びN-MOST4が通常ON状態にならないところ、すなわち各MOSTのスレツシヨルド電圧より小さい電圧が、ゲート、ソース間に印加されるように設定してある」(2頁左下欄7行ないし11行)ことが記載されている。そして、このような構成による作用効果は、「対称相補形接続されたP型およびN型のMIS・FETの各ゲート電極に(中略)一定電圧を印加しているため、P型およびN型のMIS・FETが独立して動作し、同時にON状態となることが殆ど無く貫通電流を極めて少なくすることができると共に、コンデンサをゲート容量に対して直列接続しているため見かけ上の負荷容量が減少し、応答速度を向上できると共に充放電電流も減少させることができ、大幅な電力消費を減少させることが可能であ」(3頁左上欄19行ないし右上欄10行)ることとされている。

以上のとおり、引用例2に開示されているバイアス構成は一定の電圧を印加するものであって、電子回路の技術分野の慣用語である「固定バイァス」である(JIS工業用語大辞典は、「固定バイアス」を「外部電源によって一定のバイアス電圧を得ること」と定義している。)。そして、「固定バイアス」は、これを施すことによって貫通電流をゼロにして消費電力を低減することは可能であっても、本願第2発明のように電源電圧あるいは温度の変化に対して動作の安定を図ることができないことは明らかである。そして、引用例2記載のP型およびN型のFETは、同時にON状態にならず、入力信号が印加されない状態ではドレイン電流が流れないことになるから、引用例2の記載から、常に最適な大きさのドレイン電流を保つようなバイアス電圧を印加することを企図する本願発明の「定電流バイアス」の構成に想到することは不可能である。

(3)相違点の判断の誤り

前記のとおりであるから、引用例2には直流的に定電流バイアスされたインバータが記載されているとして、このインバータの構成を引用例1記載のダイナミック分周回路の上段部に採用し、そのダイナミック分周回路を直流的に定電流バイアスされたものとすることは当業者であれば容易に想到しえたことであるとした審決の相違点の判断は、誤りである。

第3  請求原因の認否及び被告の主張

1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願第2発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

2  本願第2発明が要旨とする「定電流バイアス」の技術内容について

原告は、本願第2発明の特許請求の範囲に記載されている「定電流バイアス」は、一定の電流を流すバイアスという意味以上の解釈ができないので、その技術内容を明らかにするためには本願明細書の発明の詳細の説明を参酌しなければならないとしたうえ、本願発明が要旨とする定電流バイアスは、制御回路によって最適なドレイン電流となるように制御されているものであると主張する。

しかしながら、「定電流バイアス」という用語は、電子回路の技術分野においては、原告主張のとおり「一定の電流を流すバイアス」の意味で普通に使用されており、一義的に明確である。そして、本願第2発明が要旨とする「定電流バイアス」を「一定の電流を流すバイアス」と解しても、その回路構成において格別の不都合は生じないから、「定電流バイアス」の技術内容を明らかにするためには本願明細書の発明の詳細の説明を参酌しなければならないという原告の主張は失当である。加えて、原告が援用する本願明細書の記載は、本願発明の特許請求の範囲1項記載の発明をも含む説明であって、本願第2発明のみに関する説明ではなく、とりわけ、解決手段に関するものとして原告が援用する本願明細書の記載は、特許請求の範囲1項記載の発明と本願第2発明とに共通する実施例の構成の説明にすぎない。

本願第2発明が要旨とする「定電流バイアス」は、その特許請求の範囲に、「分周回路は直流的に定電流バイアスされたダイナミック分周回路であり」、その分周回路が電界効果トランジスタ(FET)によって構成されることが記載されているのみであって、分周回路のどの部分に定電流が流れるようにバイアスするのかすら記載されていないのであるから、本願第2発明が要旨とする「定電流バイアス」を、原告主張のように「制御回路によって最適なドレイン電流となるように制御されているもの」に限定して理解すべき理由は全く存しない。

この点について、原告は、本願発明が要旨とする「定電流バイアス」は、単に各FETのゲートに高抵抗を介して一定電圧を印加することではないと主張する。

しかしながら、本願明細書の「直流的には一方のFETのゲートに高抵抗素子を介して一定のバイアス電圧を印加して定電流バイアスし」(7頁7行ないし9行)、「高抵抗8106を介して、図示のごとくPチャネルFET8102のゲートに所定のバイアス電圧を加えることにより、FET8102、8104を主要部とするインバータ型の増幅回路に定電流バイアスが行われ」(23頁17行ないし24頁2行)及び「高抵抗8214、8216を介して所定のバイアス電圧をゲートに加えることによりFETの定電流バイアスが行われ」(24頁13行ないし16行)という記載によれば、本願明細書にいう「定電流バイアス」とは、高抵抗素子を介して一定の電圧あるいは所定の電圧(「一定の電圧」と「所定の電圧」は、技術的に同義というべきある。)を印加することと理解するのが当然であり、特許請求の範囲1項に記載されている「相補型電界効果トランジスタの一方のゲートを高抵抗素子を介して電圧源に接続することにより該トランジスタを、ゲート電圧の変化に対しドレイン電流が指数関数的に変化する指数動作領域に、直流的に定電流バイアスし」という記載もこれに副うものであることが明らかである。

3  引用例2記載の技術内容について

原告は、引用例2に開示されているバイアス構成は「固定バイアス」であると主張する。

しかしながら、引用例2には「P-MOST3のゲート電極には例えばポリシコン等で構成された第1の抵抗素子5と、第1のコンデンサ6の一端が接続されている。」(2頁右上欄9行ないし12行)、「第1、第2の抵抗素子5、7の一端には例えば電池電圧を高抵抗で分割する回路(図示せず)に接続され、一定電圧VDD1、VSS1が印加されている。」(同欄16行ないし19行)と記載されているところ、このような回路において用いられる抵抗素子を高抵抗のものとすることは、昭和53年特許出願公開第87152号公報(乙第1号証)の3頁左下欄3行ないし8行、昭和53年特許出願公開第128259号公報(乙第2号証)の3頁右上欄7行ないし12行に記載されているように、本出願前の周知技術である。そうすると、引用例2記載の発明においても、MOSTのゲート電極には高抵抗を介して所定の電圧あるいは一定の電圧が印加され、電子回路の技術分野における「定電流バイアス」が行われていることが明らかであって、この構成は本願第2発明の構成と何ら変わりがない。したがって、これを殊更に「固定バイアス」と意味付けし、引用例2の記載から本願発明が要旨とする「定電流バイアス」に想到することは不可能であるという原告の主張は、全く当たらない。

この点について、原告は、JIS工業用語大辞典を援用して、「固定バイアス」とは「外部電源によって一定のバイアス電圧を得ること」であると主張する。しかしながら、原告が援用するJIS工業用語大辞典の記載は、乙第3号証(JIS「電子管用語」)に示されているとおり、電圧制御を行う「電子管」の技術分野における用語の定義であるから、これをもって、「固定バイアス」が、電子管とは全く関係のない引用例2記載の発明が属する技術分野における慣用語というのは当たらない。

4  相違点の判断について

以上のとおりであるから、引用例2には応答限界の向上と一段の低電力化を図るために直流的に定電流バイアスされたインバータが記載されており、このインバータの構成を引用例1記載のダイナミック分周回路の上段部に採用して、そのダイナミック分周回路を直流的に定電流バイアスされたものとすることは当業者であれば容易に想到しえたことであるとした審決の相違点の判断に、何ら誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願第2発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  成立に争いのない甲第2号証の1のうちの特許願書添付の図面、同号証の2(平成1年4月7日付け手続補正書添付の本願明細書及び図面)、同号証の3のうちの平成2年4月19日付け手続補正書添付の図面、及び、同号証の5(平成3年2月8日付け手続補正書)によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が次のとおり記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

(1)技術的課題(目的)

本願発明は、比較的高い周波数の時計用集積回路の構成に関するものであって、特に低電力の水晶発振器と、同じく低電力の分周器を備えたことを特徴とする(本願明細書3頁14行ないし17行)。

別紙図面Aの第1図Aは、相補型のFET構成のインバータ回路の結線を示し(同4頁18行、19行)、第2図Aは第1図Aのインバータの貫通電流と電流駆動能力を示す(同5頁14行、15行)。NチャネルFETのドレイン電流をIDN、PチャネルFETのドレイン電洗をIDPとした場合、貫通電流はB1、B2、B3を結ぶ曲線で示され、電流駆動能力はIDDのようになる。電源電圧VBを低電圧及び高電圧にした場合の特性は第2図B、第2図Cのとおりであって、電流駆動能力は大差がないが、貫通電流は電源電圧に大きく依存することが判る。貫通電流は、インバータ回路の無負荷時に、FETを通じて無駄に流れる電流であるから、あらゆる状況において最小限の値に抑制する必要がある(同5頁15行ないし6頁7行)。

(2)構成

上記の技術的課題を解決するために、本願発明は、その要旨とする構成を採用したものである(平成3年2月8日付け手続補正書2枚目2行ないし3枚目11行)。

貫通電流を最小の値に抑制するためには、電源電圧に対応したFETの閾値電圧を設定する方法、あるいは、FETの閾値電圧に対応して電源電圧を制御する方法もあるが、本願発明は、電源電圧の依存しないFETのゲートバイアス法を採用している(本願明細書6頁7行ないし7頁5行)。すなわち、インバータを構成するFETのP、Nのゲート間はコンデンサで交流結合とし、直流的には一方のFETのゲートに高抵抗素子を介して一定のバイアス電圧を印加して定電流バイアスし、他方のFETのゲートはやはり高抵抗素子を介してドレイン電極と接続して負帰還バイアスをかける。これによってこの交流結合のインバータは増幅率の高い状態にバイアスされる。負帰還型のバイアスを用いずに他方のFETのゲートも定電流バイアスにしようとすると、ドレイン側の電位レベルがFETの特性に敏感に反映し、動作点が高増率領域に定まらない(同7頁5行ないし17行)。

従来の水晶発振用増幅回路では、第1図AのインバータのGD間を高抵抗素子で接続したものが用いられていたが、2乗領域(第4図のゲート電圧VGがVTHより大の領域。同10頁4行ないし7行)で使用するために、貫通電流が多い割に電圧増幅率が小さいし、電源電圧の変化に対して増幅率が影響を受け易く、発振マージンが少ないか、消費電流が多くなる。したがって、相互コンダクタンスを大きく、かつ、貫通電流を少なくするためには、何らかの方法で最適なドレイン電流となるような制御回路との組合せが必要である。これがない場合には、FETのVTHのばらつきや温度の変化により最適バイアス状態から外れ易く、使いものにならない(同11頁7行ないし19行)。

比較的高い周波数の分周を行う場合にはダイナミック分周回路が使われるが、ここでも定電流バイアスによる効果が大きい。ダイナミック分周回路は、動作入力周波数に上限と下限を持ち、FETの閾値のばらつき、温度、入力振幅の影響を受け易く、スタティク分周回路に比較して動作マージンが小さい。ダイナミック分周回路の内で、入力信号が印加されるFETを高抵抗を介して定電流バイアスをほどこし、コンデンサを介して交流結合により入力信号の交流成分を印加すると、ダイナミック分周回路の持つ動作マージンの小ささをカバーできる。ダイナミック分周回路の動作中心周波数と水晶発振周波数とを充分に近付けておくと動作マージンを大きく取れるので有利である。定電流バイアスのバイアスレベルを合わせ込むことことによりこの動作中心周波数を調整できる。PチャネルFETとNチャネルFETとでは、直流バイアスレベルが異なる。入力信号を受けるFETの直流バイアスレベルを調整できるということは、集積回路製造時のFET特性のバラツキを等価的に吸収できることに外ならず、集積回路の収率を高め、低閾値のFETの採用を可能にする(同11頁20行ないし13頁5行)。

第6図は電源電圧VBに対する入力信号振幅einの下限値を示すもので、Aは従来の分周回路、Bは分離ゲートバイアスの分周回路である(同14頁16行ないし19行)。第6図Aの分周範囲は上方に広がっているが、実際上はein=VBの直線の下方しか使えない。実際に動作する範囲で比較すると、第6図Bが格段に広いことが判るであろう(同15頁9行ないし16行)。また、電源電圧に対すると同様の安定動作化の作用が、温度特性及びFETの閾値のバラツキに対して効く(同15頁16行ないし18行)。

(3)作用効果

本願発明によれば、発振回路のIC構成に大きな形状の発振用電界効果トランジスタ(FET)を用いてチャネル短絡効果を防ぎ、指数動作領域で動作させることにより消費電流が小にもかかわらず相互コンダクタンスを大とし、定電流バイアス法により電源電圧の低い領域から高い領域まで安定に発振マージンを確保し、交流結合により耐湿性を向上し、緩急調整を可変分周回路と微調用トリマコンデンサとの組合せとすることで発振回路の最適条件を保持することができる。また、分周回路においては、定電流バイアスとコンデンサによる交流結合により広い動作範囲を確保し、低電圧・低電力動作を可能とし、分周器は水晶発振器の正弦波出力で共振励振駆動することにより、一層の低電力化を実現することができる(本願明細書4頁2行ないし16行)。

2  本願第2発明が要旨とする「定電流バイアス」の技術内容について

原告は、本願第2発明の特許請求の範囲に記載されている「定電流バイアス」の技術内容を明らかにするためには本願明細書の発明の詳細の説明を参酌しなければならないとし、本願発明が要旨とする「定電流バイアス」は、常に最適な大きさのドレイン電流を保つようなバイアス電圧を印加することであると主張する。

しかしながら、前掲甲第2号証の5によれば、本願発明の特許請求の範囲には、「定電流バイアス」について、同1項記載の発明では、「発振回路は相補型の電界効果トランジスタ対からなる(中略)インバータ型の増幅器を備えて水晶発振子を励振するものであり、該相補型電界効果トランジスタの一方のゲートを高抵抗素子を介して電源圧に接続することにより該トランジスタを、ゲート電圧の変化に対しドレイン電流が指数関数的に変化する指数動作領域に、直流的に定電流バイアスし」(2枚目2行ないし10行)と記載されているのに対し、本願第2発明では、「分周回路は直流的に定電流バイアスされた」とのみ記載され、本願第2発明においては特許請求の範囲1項のような限定は存しないことからすると、本願第2発明が要旨とする「定電流バイアス」は、通常の意味における一定の電流を流すバイアスと理解すべきものである。このことは、前記特許請求の範囲の記載を本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載と関連させて検討してみても、明らかなところである。

すなわち、前掲甲第2号証の2によれば、本願明細書の発明の詳細な説明において、本願第2発明が対象とする分周回路の「定電流バイアス」に関して言及されている記載は、前掲の

a  「比較的高い周波数の分周を行う場合にはダイナミック分周回路が使われるが、ここでも定電流バイアスによる効果が大きい。ダイナミック分周回路は、動作入力周波数に上限と下限を持ち、FETの閾値のばらつき、温度、入力振幅の影響を受け易く、スタティク分周回路に比較して動作マージンが小さい。ダイナミック分周回路の内で、入力信号が印加されるFETを高抵抗を介して定電流バイアスをほどこし、コンデンサを介して交流結合により入力信号の交流成分を印加すると、上記の如きダイナミック分周回路の持つ動作マージンの小ささをカバーできる。ダイナミック分周回路の動作中心周波数と水晶発振周波数とを充分に近付けておくと動作マージンを大きく取れるので有利である。定電流バイアスのバイアスレベルを合込むことによりこの動作中心周波数を調整できる。(中略)PチャネルFETとNチャネルFETとでは、直流バイアスレベルが異なる。入力信号を受けるFETの直流バイアスレベルを調整できるという事は、集積回路製造時のFET特性のバラツキを等価的に吸収できる事に外ならず、集積回路の収率を高め、低閾値のFETの採用を可にする。」(同11頁20行ないし13頁5行)

のほかには、実施例の説明である

b  「高抵抗8214、8216を介して所定のバイアス電圧をゲートに加えることによりFETの定電流バイアスが行なわれ、(中略)第6図B、第7図Bの説明で述べたように安定した分周特性のダイナミック分周回路が得られる。」(24頁13行ないし18行)

のみであると認められる。

ただし、前掲甲第2号証の2によれば、本願明細書には、発振回路の「定電流バイアス」と分周回路の「定電流バイアス」とに共通する実施例の説明として、

c  「レギュレータ555の出力信号は発振バイアス調整回路540、ダイナミック分周回路の自走周波数の調整回路542、発振分周電流調整回路548、温度検出調整回路550、552へ基準となる電圧情報を伝達する。これらの基準情報はFETを用いたカレントミラー回路により伝達され、定電流バイアスに用いられる。」(21頁7行ないし13行。なお、この部分は、「本発明による時計用集積回路の応用を示す機能ブロック図」(19頁3行、4行)である第5図の説明として記載されているものである。)

d  「第8図Bにおいて8500は本発明のバイアス制御回路であって、8502はレギュレータ回路、(中略)8508、8510、8512、8514は可調整型カレントミラー回路で、スイッチングトランジスタを介してバイアス電流レベル或は動作電流を調整する。」(26頁16行ないし27頁12)

と記載されていることが認められる。

一方、前掲甲第2号証の2によれば、本願明細書の発明の詳細な説明において、特許請求の範囲1項記載の発明が対象とする発振回路の「定電流バイアス」に関して言及されている記載は、前掲の

e  「インバータを構成すべきFETのP、Nのゲート間はコンデンサで交流結合とし、直流的には一方のFETのゲートに高抵抗素子を介して一定のバイアス電圧を印加して定電流バイアスし、他方のFETのゲートはやはり高抵抗素子を介してドレイン電極と接続し、負帰還バイアスをかける。これによってこの交流結合のインバータは増幅率の高い状態にバイアスされる。負帰還型のバイアスを用いずに他方のFETのゲートも定電流バイアスにしようとすると、ドレイン側の電位レベルがFETの特性に敏感に反映し、動作点が高増率領域に定まらない。」(同7頁5行ないし17行)

のほか、実施例の説明として、

f  「第8図Aにおいて、8100は定電流バイアスによる水晶時計用発振回路であって、8102は発振用のPチャネルFET、8104は同じくNチャネルFET、8106はバイアス印加用高抵抗であって、例えばポリシコン抵抗で形成し、約300MΩ~500MΩである。8108は負帰還バイアス用の高抵抗で、約300MΩ~500MΩのポリシコン高抵抗で形成されている。」(22頁10行ないし17行)

g  「高抵抗8106を介して、図示のごとくPチャネルFET8102のゲートに所定のバイアス電圧を加えることにより、FET8102、8104を主要部とするインバータ型の増幅回路に定電流バイアスが行なわれ、(中略)貫通電流を抑制し、高い増幅率が得られる。」(23頁17行ないし24頁4行)

h  「第8図Bにおいて、8500は本発明のバイアス制御回路であって、8502はレギュレータ回路、8504は温度により抵抗値の減少するアナログ温度補強用ポリシコン抵抗、8506は離散型温度補強用拡散抵抗で、温度と共に抵抗値を増す。温度補強は、温度の上昇と共にシリコン半導体のキャリア移動度が低下し、水晶発振が行なわれ難くなるのを補う目的で用意したものである。ポリシコン抵抗によるアナログ温度補強は温度の上昇と共にレギュレータの電流を増加させる。拡散抵抗をセンサとする離散型温度補強は、一定の温度例えば50℃以上で、発振電流を増強するもので、発振分周部の安定化電源のVSSHの電圧をよりローレベルに引下げる。」(26頁16行ないし27頁9行)と記載されていることが認められる。

以上の記載を総合して考えると、本願発明のうち、発振回路を対象とする特許請求の範囲1項の発明は、インバータを構成する1つのFETのゲートに高抵抗を介して電圧源に接続して定電流バイアスをかける構成によって、そのFETを、「ゲート電圧の変化に対しドレイン電流が指数関数的に変化する指数動作領域」で動作させることを要旨とするものであり、したがって、その定電流バイアスは、ドレイン電流を「ゲート電圧の変化に対し指数関数的に変化する指数動作領域」にするように制御されたものであると理解することができる(ちなみに、「指数関数的に変化する指数動作領域」とは、前掲甲第2号証の2によれば、本願明細書に「各々のゲートバイアス電圧をVBl、VBm、VBmnとして各ドレイン電流と等しくした場合、相互コンダクタンスはIDmnとIDmについて等しく(指数領域にある。)、IDlについては第4図の直線部から外れた2乗領域に入り、相互コンダクタンスはやや小さくなる。rdが2乗領域から指数領域にわたってドレイン電流に逆比例する」(10頁15行ないし11頁2行)と記載されていることが認められるので、別紙図面A第4図において、ゲート電流に対しドレイン電流が指数関数的に変化する領域(2次関数的に変化する領域に先立つ領域)のことと理解することができる。)。

これに反し、分周回路を対象とする本願発明の特許請求の範囲2項には、前記の特許請求の範囲1項のように「ゲート電圧の変化に対しドレイン電流が指数関数的に変化する指数動作領域に」直流的に定電流バイアスするという限定がなされていない。したがって、本願第2発明においては、分周回路を指数動作領域において動作させることは意図されていないと考えるべきであり、したがって前記の「2乗領域で使用する」「従来の水晶発振用増幅回路」(本願明細書11頁10行、7行)も、本願第2発明が要旨とする構成に含まれることにならざるをえない。そして、本願第2発明が要旨とす定電流バイアスの構成は、単に、高抵抗を介して所定の(あるいは、一定の)バイアス電圧をゲートに加えるものであって、それ以上に、特定の制御が行われているものと理解することはできない(特許請求の範囲1項の発明と同2項の発明とが併合出願されていても、両者が別個の発明である以上、1項の発振回路に関する定電流バイアスの構成についての記載から本願第2発明の要旨を限定的に解することはできない。)。

この点について、原告は、本願第2発明が要旨とする定電流バイアスは、単に各FETのゲートに高抵抗を介して一定の電圧を印加することではなく、電源電圧や周囲温度の変動にかかわらず、常に最適の大きさのドレイン電流を保つようなバイアスであると主張する。

確かに、本願発明の実施例を示す別紙図面A第8図には、ダイナミック分周回路8200のFETのゲートに加えられる電流は、可調整カレントミラー回路8512からのものであることが示されており、この回路8512はスイッチングトランジスタを介してバイアス電流レベルあるいは動作電流を調整するものであるから、同実施例におけるバイアス電流が制御可能のものであることは事実である。しかしながら、これはあくまで1実施例の構成にすぎず、本願第2発明の特許請求の範囲が前記のようにこの点に関する構成の特定を何らしていない以上、原告の上記主張は失当といわざえるをえない。

3  引用例2記載の技術内容について

引用例2に、直流的に定電流バイアスされたインバータの構成が開示されていることは原告も認めて争わないところである。

この点について、原告は、引用例2記載のバイアス構成は固定バイアスであると主張する。確かに、引用例2記載のバイアス構成は、通常「固定バイアス」と称される方式のものであるが、本願第2発明が要旨とする定電流バイアスの構成が前記2のとおりである以上、引用例2記載のバイアス構成が本願第2発明の構成要件を満たしていることは明らかである。成立に争いのない甲第6号証(神谷武志作成の「見解書」)には、原告の主張に沿う記載が存することが認められるが、この記載は、本願第2発明の特許請求の範囲の記載と関連させることなく、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面を検討した結果によるものであって、前記2の認定判断に照らし、採用できない。

4  相違点の判断について

以上のとおりであるから、引用例2記載のインバータの構成を引用例1記載のダイナミック分周回路の上段部に採用して、そのダイナミック分周回路を直流的に定電流バイアスされたものにすることは当業者であれば容易に想到しえたことであるとした審決の相違点に係る認定判断は正当であって、本願発明の進歩性を否定した審決に原告主張のような誤りは存しない。

第3  よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面 A

第1図AはC/MOSイソバータの回路構成図、第1図Bは該インバータの入出力特性図、第1図Cはインバータの相互コンダクタンスと増幅率の入力特性図、

第2図A、B、Cはインバータの貫通電流の電源電圧依存性を示す特性図、

第3図Aはインバータの相互コンダクタンスと増幅率の電源電圧依存性を示す特性図、第3図BはFETのドレイン電圧とドレイン電流の関係を示す特性図。第4図はドレイン電流のゲート電圧依存性を対数目盛で表わしたものを示す関係図であり、

第5図は本発明による時計用集積回路構成の機能ブロック図であり、

第6図Aは、ダイナミック分周器の従来構成の分周特性図、第6図Bは本発明による分離バイアス型ダイナミック分周器の分周特性を示す特性図、

第7図A、Bはダイナミック分周器の自走周波数の電源電圧依存性を示し、第7図Aは従来、第7図Bは本発明の特性図である、第7図Cは発振器における昇圧回路構成例を示す回路図、

第7図Dは従来形のダイナミック分周器の回路図であり、第7図Eは本発明による分離ゲート型ダイナミック分周回路図である。

第8図A、B、Cは本発明による時計用集積回路構成例を示す回路図。

第9図A、B、C、D、E、F、Gは、第8図A、B、Cに示す回路の動作を示すタイムチャートである。

504…水晶振動子、520…発振用励振回路、522…分周回路、532…モータドライバ回路、508…モータ、502…時計用IC、562…テストモードカウンタ、560…切換回路、564…動作制御回路。

〈省略〉

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別紙図面 B

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別紙図面 C

1…P型のMOS・FET

2…N型のMOS・FET

3、11、17…P型のMIS・FETとしてのMOS・FET

4、12、18…N型のMIS・FETとしてのMOS・FET

5、13、19…第1の抵抗素子

6、15、21…第1のコンデンサ

7、14、20…第2の抵抗素子

8、16、22…第2のコンデンサ

9、10…インバータ

〈省略〉

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